≪足元市場動向≫:住宅価格の上昇率は減速傾向
2022年8月26日に開催されたジャクソンホール会議におけるパウエルFRB議長の講演では、引き続きインフレ抑制を重視する方針(タカ派姿勢)が強調されました。引き続き「利上げはデータ次第」と繰り返したものの、「利上げ幅はいずれ小幅化するだろう」というハト派的なコメントは一切ありませんでした。この講演を受けてFRBのタカ派姿勢は明確となり、9月20・21日のFOMCでは+0.75%の利上げ幅となる公算が高まったものの、具体的な年内利上げ幅は9月2日の雇用統計および9月13日の消費者物価(8月分)の経済指標データ次第となる見込みです。
住宅市場は住宅在庫が引き続き低水準で推移し、住宅価格は高止まりを見せています。上記グラフは1983年から2022年までのケースシラー住宅価格指数(インフレ率調整済み)の推移(青線:全米指数、赤線:20都市圏コンポジット指数)です。歴史的高水準を維持しており、住宅バブル絶頂期の2006年と比べて現在は全米指数+14.6%、20都市圏コンポジット指数+6.1%価格が高い状況です。
そのような中、下記グラフは2000年から2022年までのケースシラー住宅価格指数(対前月)ですが、6月実績(4月、5月、6月に成約した住宅価格の平均、2月成約分も含まれており遅行)は0.33%(矢印箇所)と2020年6月以来の小幅な上昇となりました。米国20都市のうち7都市(シアトル、サンフランシスコ、サンディエゴ、ポートランド、ロサンゼルス、デンバー、ワシントン)で価格の減少(対前月)が観察されております。
住宅在庫と住宅価格の相関関係(下図)について、供給が増えれば価格は減少し、今のように供給が少なければ価格は上昇します。6月の住宅在庫2.9ヶ月に対して価格上昇率は0.3%~0.5%付近を示しています(矢印箇所)。これは上記ケースシラー住宅価格指数(対前月)の6月の上昇率3.3%と近い数値となっております。また、7月の住宅在庫は3.3ヶ月であることから、6月と同水準の価格上昇率が予想されます。2022年1月の1.9ヶ月から始まり、5月2.6ヶ月、6月2.9ヶ月、7月3.3ヶ月と適正水準である4~6ヶ月から大幅に乖離はしているものの、着実に住宅在庫は増えつつあることからも、住宅価格の上昇率は減速していくと考えられます。
≪住宅市場のトレンド≫:住宅購入から賃貸へのニーズ転換
米国30年固定住宅ローン金利は8月に5.95%を記録しました。これは6月の最高値6.28%以来の高値ですが、金利上昇を受けて住宅ニーズにトレンド転換が起きつつあります。これまで住宅購入が盛んに行われていたものの、昨今では賃貸ニーズが急増し、賃貸価格が高騰しております。ニューヨーク・マンハッタンの平均賃貸価格は月5,000ドル、マイアミやタンパではコロナ前と比べて50%増となる月2,000ドルにまで高騰しています。直近数年間は賃貸価格の上昇率は3~4%で推移していたものの、今年に入ってから17%の上昇率となっております。
上記グラフはケースシラー賃貸価格の推移(青線:全米、赤線:20都市圏コンポジット)を示したものですが、2006年住宅バブルをピークに賃貸料は減少していたものの、2019年コロナ以降急騰しています。世帯形成層であるミレニアル世代のうち8割が一人暮らしであることに加え、住宅ローン金利の上昇および住宅価格の高騰によって若い世帯形成層が住宅取得を諦め賃貸に移行し、集合住宅の在庫不足により空室率が5%の低水準(下記グラフ(右):米国国勢調査局)となっていることが賃貸料急騰の主な要因です。
第2四半期運用報告書でも記載いたしましたが、下記グラフは米国国勢調査局が発表している住宅着工件数推移です。戸建て住宅着工件数(赤線)が減少する一方、賃貸住宅(青線)は増加しており、金利上昇および価格高騰によって住宅を簡単に取得できない若い世帯形成層が賃貸住宅へ流れていることが伺えます。しかしながら今後、大半を占める一人暮らし層が世帯を形成し、かつ賃貸住宅の在庫が増えていけば、賃貸住宅のインフレも徐々にペースを緩めていくと考えております。
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