【連載】米国住宅市場動向≪2022年10月号≫

2022-10-01 adminc

≪足元市場動向≫:住宅市場が回復するためには調整が必要であり、一時的な減速感はむしろプラス材料

2022年9月に開催されたFOMCで、FRBは市場予想通り75bpsの大幅利上げを決定しました。インフレ高進、労働市場のひっ迫の持続を受け、3ケ月連続の大幅な利上げとなりました。これによって米国30年固定住宅ローン金利は2008年以来の高水準である6.25%にまで上昇しました。

パウエル議長はFOMC会合後の記者会見で『住宅市場の調整』について言及しました。「米国全土において住宅市場が過熱していた時期もある。しかし、我々が目にしている住宅価格の減速感は、賃貸など住宅市場のファンダメンタルズと住宅価格の整合性を高めるのに寄与するだろう。これは良いことである。」と市場の減速感を認めつつも前向きに捉えていることを表明しました。さらに、「需給バランスが改善され、住宅価格が妥当な水準かつ妥当なペースで伸び、人々が再び住宅購入に意欲的になるには住宅市場が調整を経る必要がある。住宅価格と家賃が一段と大きく減速するには時間を要する。住居インフレはしばらくの間、高い水準にとどまるだろう。」と語りました。このことからも、FRBとしては住宅市場の現状に対しては決して悲観的には捉えておらず、長い目で見て改善の途上にあると認識していることが伺えます。

下のグラフはケースシラー住宅価格指数(対前月)および住宅在庫と住宅価格の相関です。ケースシラー住宅価格指数(対前月)は毎月2ヶ月遅れで発表されます。今回のレポートは7月分(5月、6月の成約を含む3か月平均)であるため、住宅ローン金利が現在よりかなり低い時期の価格上昇も含まれています。7月の住宅価格は-0.24%と2012年2月以来となる価格下落となりました。米国20都市のうち12都市(フェニックス、ロサンゼルス、サンディエゴ、サンフランシスコ、デンバー、ワシントン、ボストン、デトロイト、ミネアポリス、ポートランド、ダラス、シアトル)で価格の下落が観察されています。これは、米国住宅が例年、季節性要因として秋口から年末にかけてホリデーシーズンに入り住宅購入者が減ることから住宅価格(対前月)が下落する傾向にあることにも起因しており、ここから大幅な下落に繋がることはないものと考えております。

住宅在庫は5月2.6ヶ月、6月2.9ヶ月に続いて7月は3.2ヶ月と連続で在庫が増加傾向にあるものの依然として低水準にもかかわらず住宅価格指数は下落。これは、供給が低いにもかかわらず価格が下落しているという異常値ですが、全米リアルター協会(NAR)が発表するグラフデータが、在庫を多めにカウントしている(住宅販売待ちを在庫に含めている)ことに起因すると考えられます。また、8月の住宅在庫は3.2ヶ月と横ばいであるため、今回と同じような異常値が出ない限りは住宅価格指数は0.3%~0.5%の 範囲(丸印箇所)で推移することが予想されます。

≪住宅市場のトレンド≫:昨今の住宅需要の鈍化は、殆どの住宅開発業者にとっては大きな影響はない

John Burns Real Estate Consulting社(米国不動産調査会社)が21都市の住宅開発業者(以下、ホームビルダー)へ各地域における業界動向に関するアンケートを実施しました。地域によってバラつきはあるものの、アンケート結果は楽観的な意見が多く、特に下記2点は各地のホームビルダーから多くあった興味深いコメントです。 1)住宅販売価格の値引きはあるものの、(今は)他のインセンティブによって十分な利益が確保できている。 2)需要の鈍化によりサプライチェーンは冷え込んだが、住宅着工を遅らせることによって建設のサイクルが改善している。 以下21都市からの翻訳コメントです。(ネガティブコメントは赤字

◆オースティン(テキサス州) 「8月は全体的に住宅販売が非常に悪く、バイヤーは住宅購入を急いでおらずキャンセル件数は前月から急増した。

◆ボルティモア(メリーランド州) 「5%以下というジャンボ住宅ローン*の低金利が、バイヤーの購入意欲を促進している」 *通常の住宅ローン限度を超える金額の住宅ローンのこと。審査基準は厳しいが、より高額な不動産購入時に役立つローン。

◆ボイシー(アイダホ州) 「この1か月間で、これまでよりも建築サイクルが改善した。」

◆シャーロット(ノース・カロライナ州) 「8月の販売は好調だった。決算費用を補助するインセンティブの増加やバイ・ダウン*が販売に寄与した。」 *販売業者が住宅ローンのうち1%を負担する販売促進策のこと。

◆クリーブランド(オハイオ州) 「建築サイクルはここ4,5ヶ月で改善している。しかし内覧予約は完全に減り、問い合わせ件数もまばらになっている。

◆ダラス(テキサス州) 「住宅着工の遅れは基礎・骨組の問題を解決。建築サイクルは短縮、材料が入手しやすくなれば更に短縮されると思う。」

◆ハリスバーグ(ペンシルベニア州) 「8月上旬に住宅ローン金利が低下した際、バイヤーの活動が大きく活発化した。これは同時に行われたインセンティブ付与と価格値引きと一致する。売上を上げるためにマージンを大きく削った。」

◆ヒューストン(テキサス州) 「他のホームビルダーと同様、住宅着工を大幅に減速したことで建築サイクルが短縮できると確信。着工の減速は労働争議にも一定の緩和をもたらしている。」

◆ジャクソンビル(フロリダ州) 「フレーム素材と人件費が安定した。ガレージ扉の納期も予測しやすくなった。」

◆カンザスシティ(ミズーリ州) 「建築サイクルの課題のほとんどが緩和されつつある。下請け業者から仕事依頼の電話が増えつつある。」

◆ルイビル(ケンタッキー州) 「建築期間は改善されつつある。最大の遅れの一つは、自治体の許認可プロセスを通過すること。

◆オグデン(ユタ州) 「販売件数の減少のため、着工を控えることによって、フロントエンドの建築期間が大幅に減少した。」

◆オクラホマシティ(オクラホマ州) 「ホームビルダーは今、同じ顧客を奪い合い、計画的に価格を下げている。

◆フィラデルフィア(ペンシルベニア州) 「売上の減速により、労働問題や供給問題に対するプレッシャーが緩和された。」

◆フェニックス(アリゾナ州) 「インセンティブは増加の一途を辿っており、値引き率が20%を超える地域もある。プラス面は、建築サイクルが改善され、長いトンネルの終わりに光が見えていること。しかし、トンネルの先には顧客がいない。。。」

◆ローリー・ダーラム(ノース・カロライナ州) 「スケジュール上の最大の成約は、地元の電力会社から電力供給がされないこと。過去24ヶ月間、すべて発電機で建設してきた。電力がないために、完成した家の契約が滞ってしまったこともある。

◆リバーサイド・サンバナーディーノ(カルフォルニア州) 「6か月前に経験した大量の材料不足は解消されつつあるが、現在の電気スイッチギア不足は、すべてのプロジェクトでスケジュールに数週間の遅れをもたらしている。

◆サクラメント(カリフォルニア州) 「バイヤーは急いでいない。大手ホームビルダーが大きなインセンティブ(値引きや決算費用)で多くの販売を獲得。

◆タンパ(フロリダ州) 「大手ホームビルダーは、2022年にクローズする在庫住宅を値下げ。金利が6.5%になれば非常に荒れた市場になる。

◆ワシントンD.C.(コロンビア特別区) 「着工が激減している。これは取引コストを大幅に下げることになり、サプライチェーン全体に波及すると考えている。」

◆ウェスト・パーム・ビーチ(フロリダ州) 「今のところ、アメリカ中で起きていること(減速)はまだ起きていない。45万ドル以下の物件販売はまだ好調。」 以上

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