日本の口座は、そのまま使えるとは限らない
多くの日本の証券会社は、お客様が非居住者になると口座の維持や新規の取引を制限しています。保有している株式や投資信託をそのまま持ち続けられる場合もあれば、出国前に売却や口座の解約を求められる場合もあり、対応は各社で異なります。NISA 口座も、原則として非居住者は利用できません。出国時に所定の手続きをすることで一定期間保有を続けられる制度はありますが、対応している金融機関は限られます。
銀行も同様で、国内の住所がなくなると一部のサービスが使えなくなったり、口座が「非居住者円預金」に切り替わったりします。出国の前に、日本に持っている口座を一度すべて棚卸しし、各社の非居住者の取り扱いを確認しておくことが、海外在住の資産管理の最初の一歩です。
税務上の「居住地」が変わる
日本の所得税法では、国内に住所がなく、1年以上居所もない方は非居住者とされ、日本で課税されるのは原則として日本国内で生じた所得に限られます。一方で、居住国では、その国のルールで全世界所得が課税対象になることが一般的です。つまり、同じ配当や売却益でも、「どこの国で、どう課税されるか」が出国前後で入れ替わります。
相続・贈与についても、日本の相続税は被相続人と相続人の双方の居住状況や国籍、国外に住んでいた期間(一定の条件のもとで10年が目安)によって、国外財産が課税対象になるかどうかが決まります。ここは個別性が高く、金額も大きい論点ですので、国際税務に詳しい税理士など専門家に早めに相談することをお勧めします。
生活の通貨と、資産の通貨がずれる
日本で暮らしているあいだは、資産が円に集中していても大きな問題は起きません。海外で暮らし始めると、生活費はシンガポールドルや米ドルなのに、資産の大半は円のまま、という「ずれ」が生まれます。円安の局面では、円資産の外貨建ての価値が目減りし、海外での生活費が実質的に上がります。
大切なのは、為替のタイミングを当てることではなく、将来どの通貨で使う可能性が高いお金なのかを考えて、通貨の配分を決めることです。たとえば「子どもの学費は米ドル」「老後は日本に戻る可能性もあるので一部は円」といった整理を先にすると、運用方針が決めやすくなります。
資産をどこに置くか
海外在住の日本人が資産を置く場所は、大きく3つに分かれます。
- 居住国の銀行 生活口座として必須。ただし運用の選択肢は国によって限られます。
- 国際金融センター(シンガポールなど) 多通貨の口座、幅広い商品、英語・日本語での対応。居住国を移っても口座を維持しやすい点が特長です。
- 日本 非居住者には制約が多い一方、将来帰国する場合の受け皿になります。
シンガポールの口座の形としては、プライベートバンクに自分名義の口座を開く形と、Interactive Brokers のようなオンライン証券に口座を開く形があります。前者は債券やファンドなど商品の幅が広く、後者は低コストで世界の株式・ETF・債券に投資できます。資産規模と目的によってどちらが合うかは異なります(プライベートバンクの選び方も参照)。
「任せる」仕組みを持つ
海外での仕事や生活は忙しく、資産の管理に割ける時間は限られます。一方で、銀行の担当者に任せきりにすると、担当者の異動や商品の勧誘に振り回されることもあります。資産は自分名義の口座に置いたまま、運用判断だけを外部の運用会社に任せる EAM という仕組みは、海外在住の方にとって現実的な選択肢のひとつです(EAMの仕組み)。
帰国の可能性を織り込む
最後に、意外と見落とされがちなのが「出口」です。日本に帰国して居住者に戻ると、海外で開いた口座についても、日本の居住者として扱われます。海外の口座を維持できるか、日本での課税や報告義務(国外財産調書など)はどうなるか。将来の帰国の可能性がある方は、はじめから帰国後の形も含めて設計しておくと、後からの手戻りが少なくなります。
□ 日本の銀行・証券口座を棚卸しし、非居住者の取り扱いを確認した
□ 国際税務の専門家に、所得・相続の居住判定について相談した
□ 将来使う通貨ごとに、資産の配分の目安を決めた
□ 居住国以外に、口座を置く国(国際金融センター)を決めた
□ 日々の運用判断を誰が担うか(自分/銀行/EAM)を決めた
□ 帰国する場合の口座と税務の扱いを確認した
